「えっ、クビって自由なんじゃないの?」→イヤイヤ、従業員の解雇はとんでもなく不自由です。

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「えっ、クビって自由なんじゃないの?」→イヤイヤ、従業員の解雇はとんでもなく不自由です。

事業が成長してきて人を雇い始めると問題になるのが、なかなか力を発揮してくれない社員の処遇についてです。

解雇するというのは最終手段ですので、あまり使いたくは無いですが、そうも言っていられない場面に出くわすかもしれません。

とはいえ、解雇というのは簡単にできるものなのでしょうか?

今回は、企業法務の専門家、鳥飼総合法律事務所の伊澤文平弁護士に、解雇問題について聞いてみました。

伊澤先生、よろしくお願いいたします!


 

「私が社長なんだから、従業員を生かすも殺すも自分次第だ!」などと考えて、従業員を自由に“クビ”(解雇)にできると“誤解”している経営者の方は、多いのではないでしょうか。

今回は、労働法の分野に属する「解雇」をテーマに、経営者・ビジネスパーソンの“美しい誤解”を解きほぐしていきます。

 

【設例】

相談者:IT系企業「ベガエンタープライゼス」代表取締役A氏

わが社には、大学院卒で、ソコソコ頭はいいはずなのに、仕事が全くできない “できの悪い(能力不足の)” Xという従業員がおります。

大学院では英語を専攻し、英語もペラペラなんだろうなと思い採用したのですが、海外の取引先との交渉の場面では、ブロンドの髪と青い瞳を見るだけでビビってしまい、全く役に立たちませんでした。

彼の能力は、平均的な水準に達しているとはいえないし、勤務成績についても人事評価の上で、下位10%とされており、お世辞にも優秀とは言えません。

しかも、上司からの注意や「彼だとうまくコミュニケーションがとれないので、担当者を替えてくれませんか?」といった顧客からの苦情も多く、本当に使えないんですよ。

私が見る限り、仕事に対する積極性もなければ、協調性もありません。

先生、こういう “できの悪い” 従業員なら、社長である私の一存で、パパッとクビ(解雇)にしても大丈夫ですよね?

 

【弁護士からの回答】

1)解雇するのは、離婚と同じくらい大変

解雇(クビ)は、会社側の都合で、労働者という“弱者”の飯の種を一方的に奪う行為です。

そのため、後で詳しく説明しますが、裁判上、解雇が有効と認められることは、ほとんどありません。

 

この点において、解雇は、「離婚」と非常に似ているため、離婚になぞらえて説明していきます。

 

恋人同士が結婚をする場合、互いに、ルックス・性格・経歴等を見て、「この人となら一生添い遂げられる。この人しかいない!」と考えて、結婚をするのが普通です。

ただ、実際に生活を始めてみると、段々と相手の素の部分を知り、粗が目に付くようにもなります。

最初は愛し合っていた男女も次第に、「相手のあそこが気に入らない、ムカつく、ウザイ」といった愚痴をこぼすようになり、最悪の場合、離婚に至ります。

このとき、夫婦がお互いに話し合い、円満に婚姻関係を解消する「協議離婚」が成立すれば、すんなりと事は済みます。

 

これに対して、夫婦の一方が離婚に同意しない場合には、裁判所を巻き込んだ「裁判離婚」という名の泥沼劇に突入します。

 

裁判になると、夫婦は互いに「加齢臭がクサイ、クチャクチャ音を立ててご飯を食べるのが気に食わない、存在自体が気持ち悪い」といった、第三者から見るとしょうもない様な言い争いを始めます。

そうこうしているうちに、あれよあれよと時間が過ぎ、振り返ってみると離婚するまでに2・3年かかってしまった、なんてことは実務ではザラにあります。

しかも、その間の弁護士費用は膨大なものになってしまうのが普通です。

 

このように、結婚をするのは自由だし簡単なのですが、離婚(裁判離婚)するとなると膨大な時間・コストがかかってしまうのです。

 

他方、社員の採用から解雇までの流れを見てみますと結婚から離婚に至るプロセスに、非常に似ていることが分かります。

 

まず、社員を新たに“採用”することが結婚に当たります。

会社は、採用面接において、ルックス・性格・能力などなど、申込者の人となりをチェックします。

その上で、「この人ならウチ(会社)で雇ってもウマくやっていけるだろうし、活躍してくれるはずだ」と考えて、“採用”し、互いにビジネスの現場で同じ時間・空間を共有していきます。

しかし働いていく中で、段々とお互いの素性・本性が分かるようになると「あいつのあそこがダメだ・ムカつく・気に食わない」といった不平不満がつのり、多くの場合、最終的には、“解雇”(“離婚”に相当します)に至るのです。

 

2)解雇は“ほぼ”不可能と心得るべき

解雇について裁判所は、労働者という“弱者”保護の観点から、解雇権の行使のほとんどを「無効」(クビは認めないということです。)とするスタンスを採用しています。

 

そのため一旦、労働者が解雇の有効性を争い裁判にまで持ち込まれてしまうと、使用者側がいくら理屈をこねくり回しても、思惑通りに解雇できることはほとんどありません。

従業員が会社の財産を横領した等、よほどの理由でもない限り、裁判所からは問答無用で無効と判断されてしまうのです。

 

このように、「解雇は当然有効だろう」などと考えて軽い気持ちで裁判に臨んでしまうと、期待とは裏腹に認めてもらえず、しかも離婚と同じように膨大な時間・労力・コスト(弁護士費用も含む)を奪われてしまうのです。

 

3)解雇の条件

解雇が認められるか否かは、法律論的に言いますと、労働契約法16条の「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」との条文の該当性の問題です。

これだけでは何を言っているのかサッパリ分かりませんが、裁判所の使用者側に手厳しいスタンスを考慮しますと、以下のように説明できます。

解雇が認められるためには、

  1. 誰の目から見ても、解雇はやむをえないといえるだけの理由があり、
  2. 会社側からの再三の注意・指導にもかかわらず、一向に改善が見られず、かつ
  3. 解雇する以外の方法がないこと

という厳しい条件をクリアする必要があり、これをクリアしてはじめて、解雇は有効と取り扱ってもらえるのです。

 

しかも、裁判の場でこれらの事実を証明するためには、事実を裏付ける証拠(始末書や指導書などの“書面”)が求められます。

そのため、仮に、裁判の場で、「1.~3.」 に該当する事実を“主張”しても、その主張を裏付ける“証拠”がない限り、裁判所からすれば一方当事者の“妄想” にすぎない、として全く相手にされないことにも注意が必要です(これを難しい言葉で、「証拠裁判主義」といいます)。

 

さらに、「解雇の違法性が著しい場合」、つまり、誰の目から見ても解雇をするのがおかしいといえる場合には、クビにされた社員からの会社に対する慰謝料請求が認められてしまうことすらあります(東京地判平成18年11月29日、東京地判平成17年1月25日等)。

解雇もできず、挙句、慰謝料まで払わないといけないなんて、踏んだり蹴ったりですが、現状の裁判例はそのようになっておりますので、安易に解雇をすると痛い目を見ることになります。

 

4)設例について~セガ・エンタープライゼス事件(東京地決平11.10.15)~

裁判例には、能力が普通以下で、勤務成績も低い従業員に対する解雇の有効性が争われた事案があります。

裁判所は、「労働能力が劣り、向上の見込みがない」として解雇が認められるためには、問題となる従業員の能力が、「平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能力が劣り、②しかも向上の見込みがないときでなければならない」と判示し、前記「3)解雇の条件 1.~3.」の一般論をより具体化した上で、具体的事実関係の下、問題社員への解雇は無効であるとしています。

 

裁判所の見解を言い換えますと、

  1. 能力が他の社員と比較して劣っているだけでは足りず、“絶対評価”の上で“著しく”能力が低いと言えること
  2. 改善のための指導を繰り返し行う等しても、もはや、能力向上の“見込みがない”といえること

の両方に該当する必要があり、解雇が認められるためのハードルは非常に高いといえます。

 

設例についてみますと、a. 従業員Xの能力は、たしかに、他の従業員との関係では低く、人事評価の上でも下位10%に属しております。

しかし、これは相対評価にすぎず、絶対評価ではないことからすれば、能力が“著しく”低いとまではいえません。

また、b. 外国人とウマくコミュニケーションを取れなかったとしても、訓練次第では能力向上の見込みがないとはいえませんし、A氏はそういった機会を従業員Xに与えたとの事実もありません。

しかも、積極性・協調性がないといった評価も曖昧であり、人によって変わり得る性質のものです。

以上のことからしますと、社長Aは、従業員Xを解雇することはできないというべきですし、仮に解雇したとしても裁判では無効と判断されてしまうでしょう。

 

5)対応策

それでは、問題社員を抱えた経営者としては、具体的にどうすべきなのでしょうか?

解雇は、離婚と同じくらい不自由であり、裁判にまで持ち込まれてしまうと、ほぼ無効と判断されてしまいます。

そこで有効なのが、従業員に“自己都合で退職”してもらう方法です。

 

そもそも、従業員と使用者の間で争いが生まれるのは、使用者が、会社側の都合で、無理やり従業員を辞めさせようとするからです。

反対に、従業員が強制ではなく、自分の意思で進んで会社を辞める「自己都合退職」の場合には、解雇が認められるかどうかは、問題となりません。

そこで、使用者側としては、問題社員を辞めさせたい場合には、「お前はクビだ!!」と言いたい気持ちをぐっと抑えて、

① まずは、いわゆる“肩たたき”によって退職のお願い・提案をします(これを、専門用語で「退職勧奨」(タイショク カンショウ)といいます)。

退職勧奨を行なう際には、後々「辞めたくないって言ったのに、無理に退職させられた!」などとならないように、社長以外にも他の者を同席させた上で、開けた場所において、面接形式で実施しましょう。

大きな声で威嚇したり、解雇をチラつかせて退職を迫るなどの行為は、ご法度です。

 

なお、退職勧奨それ自体は、「ウチの会社を辞めて、転職するという道もあるけど、どうでしょうか?」という形で退職を“お願い”する行為にすぎず、解雇ではありません。

しかし、強制の要素がある場合には、結局、解雇と同じように取り扱われてしまう可能性があります。場合によっては、それ自体違法な行為として会社への損害賠償請求が認められることすらありますので注意が必要です(最判昭和55年7月10日、東京高判平成24年11月29日)。

 

② 次に、従業員の方から退職願を提出してもらい、“自己都合退職”という形でこれを受理する方法、あるいは、使用者と従業員との間で、“自己都合退職”するという内容の合意(「退職合意」といいます。)を結びます。

この際にも、後々「脅された!騙された!」と言われないようにするために、社員食堂や喫茶店などの開けた場所で、事務員などを同席させた上、和やかな雰囲気の下で、合意書サインしてもらうべきです。

なお、将来的に揉めそうな予感がするのであれば、“手切れ金“として、いくらかおカネを渡したり、再就職支援を約束するなどした上で、契約書にサインしてもらうのも有効ですね。

 

まとめ

最後に、これまでの解説のポイントをまとめますと、以下のとおりになります。

  1. 解雇は、離婚と同じくらい不自由であり、ほぼ不可能と考えておくのが無難です。
  2. 問題社員については、“自己都合退職“の形で、辞めてもらう方が争いは少ない。ただし、後々「脅された、騙された」と言われないような状況の下で行う必要があります。
  3. 揉めそうな従業員については、“手切れ金”として、おカネをいくらか払ってあげたり、再就職支援を約束するなどの“対価”を与えて、退職してもらうことも有効です。

 

 

本稿は伊澤文平(いざわ ぶんぺい)先生にご寄稿いただきました。

伊澤文平(いざわ ぶんぺい)先生

弁護士。法政大学を卒業後、東京丸の内にある「企業法務」を専門的に取り扱う事務所で研鑽を積む。その後、税務・企業法務のスペシャリスト集団である鳥飼総合法律事務所へ参画。
エンタメ業界での活動経験から、音楽・アニメといったエンターテイメント法務に専門性を有しております。
また、海外法律ドラマの法監修を務める等、幅広く活動しています。

 

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