平成27年4月1日以降開始事業年度より、法人税率が25.5%から23.9%へ引き下げられています。
また、平成26年10月1日以降開始事業年度においては、新たに地方法人税の導入、事業税、地方法人特別税、住民税の引き下げが行われています。
これにより、今後は以下のように表面税率、実効税率が推移していきます。
政府は日本企業の国際競争力向上や海外企業誘致のため、20%台を目標に今後も実効税率を段階的に引き下げていく方針を打ち出しており、動向が注目されるところです。
目次
表面税率、実効税率とは?
さて、上記の表にも掲載されている表面税率、実効税率はどのように算出され、何を表しているのでしょうか?
これを理解することで、それぞれどのような場面で利用するべきかが明らかになります。
表面税率と実効税率の違いを端的にいうと、以下のようになります。
当期の所得に対して
- 申告・納税する際の税率 ⇒ 表面税率
- 実質的に負担する税率や節税効果を計る税率 ⇒ 実効税率
どういうことなのか詳しく説明いたしましょう。
企業はその事業年度中に稼いだ所得に対して、決算日後2か月以内に以下の税金を申告、納税します。
- 法人税
- 地方法人税・・・・(27年4月1日開始事業年度以降)
- 住民税・・・・(道府県民税+市町村民税)
- 事業税・・・・(地方法人特別税含む)
そして、これらの税率を全て合わせたものが表面税率です。
すなわち、表面税率は当期の決算でいくら納税することになるのかを表しているのです。
しかし、表面税率では当期の所得に対して、最終的にいくら税金を負担することになるのかを表すことができません。
というもの、事業税は支払った事業年度(通常であれば翌期)の損金に算入され、翌期の税額を減らす効果があるためです。
そのため最終的な税負担額を表すには、この翌期の事業税損金算入効果を表面税率に加える必要があります。
そこで、表面税率に事業税の損金算入効果を加え、当期の所得に対し最終的にいくら税金を負担することになるかを表したものが実効税率になります。
実効税率は、以下の算式で表されます。
分母の「1+事業税率」が事業税の損金算入効果を表しています。
上記のような性質から、表面税率と実効税率ではそれぞれ利用する場面が異なります。
すなわち、決算の着地見込みに基づいて当期の納税額を予測する場合には表面税率を利用し、所得圧縮策などの節税効果をシミュレーションする場合には実効税率を利用することになります。
表面税率の計算式
それでは、表面税率、実効税率がどうように計算されているか具体的に見ていきます。
上述の通り、
であるため、まずは表面税率の算式について見ていきます。
表面税率は、以下のような算式で表されます。
表面税率=法人税率×(1+地方法人税率+住民税)+事業税率
住民税には 、都道府県に納める道府県民税 、市区町村に納める市町村民税 の2種類があり、事業税率には事業税に加え、地方法人特別税が含まれます。 図で表すと以下の様になります。
そのため、実際に各税率を当てはめて算出しようとする場合、以下のような式 になります。
表面税率=
法人税率×(1+地方法人税率+道府県民税率+市町村民税)+事業税率+地方法人特別税率
なぜこのような複雑な式になってしまうのでしょうか?
そもそも、表面税率が法人税だけではなく、地方法人税、住民税、事業税を全て足し合わせたものであれば、
表面税率=法人税率+地方法人税率+住民税率+事業税率
という式になるのでは?と思われたかもしれません。
しかし、住民税、事業税など、それぞれの税の性質に基づいた計算方法の違いを反映しているため、 このような複雑な式になっているのです。
計算式の各項目が各々どのようなものか見ていくことで、上記の式の理解が深まると思います。
それでは、さっそく順に見ていきましょう!
(前提)
各都道府県や市区町村、また法人の規模などによって税率が異なりますが、ここではイメージをつかんでもらうことが目的なので、以下、資本金1億円以下の法人、標準税率を前提とします。法人税率は平成28年3月期以降(つまり、平成27年4月1日以降開始事業年度)の新税率を使用します。
また、表記上、税額と税率の区別がややこしいので所得=100として、税率=税額と考えて下さい。
法人税
法人税は、国に納める税金で課税所得に法人税率を乗じて算出されます。平成27年4月1日以降開始事業年度から23.9%になります。
法人税額=所得×23.9%
地方法人税
地方法人税は、地域間の税源の偏在性を是正し、財政力格差の縮小を図ることを目的として、地方交付税の財源を確保するために創設された国税です。
法人税の課税対象が所得であるのに対し、地方法人税の課税対象は法人税で、税率は4.4%となります。
地方法人税額=法人税額×4.4%
道府県民税+市町村民税(住民税)
住民税には、都道府県に納める道府県民税、市区町村に納める市町村民税の2種類があります。
いずれも支払い先が都道府県か市区町村かというだけの違いで、セットで「住民税」と考えて問題ありません。
道府県民税率は5%、市町村民税率は12.3%、合計で17.3%です。
住民税には、利益に比例してかかる部分(所得割)と規模や従業員数に応じてかかる部分(均等割)がありますが、今回の算式に登場するのは所得割のみ です。
住民税も地方法人税と同様に所得ではなく、法人税額に税率を乗じて、以下のように計算されます。
住民税(所得割)額=法人税額×17.3%※
※(県5%+市12.3%)
地方法人税及び住民税のいずれも課税対象が所得でなく法人税であるため、表面税率の算式において、(1+地方法人税率+住民税)と表されます。
これを確認するため、もう一度表面税率の式を見てみましょう。
表面税率=法人税率×(1+地方法人税率+住民税)+事業税率
わかりやすくするために括弧を展開します。
表面税率
=法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)
=法人税率+法人税率×地方法人税率+法人税率×住民税率
つまり、上記の算式は一見複雑ですが、実は単純に法人税と地方法人税と住民税を足し合わせただけ、ということがわかります。
事業税・地方法人特別税
事業税は企業が行う事業に対してかかる税金で支払先は都道府県になります。
法人税と同様に所得に税率を乗じて計算され、税率は5.3%になります。
地方法人特別税も事業税の一部として都道府県に支払うものですが、一度都道府県に納めた後、財源の少ない都道府県に再配分されます。
そのため、別途「地方法人特別税」という名称で事業税とは区別されています。地方法人税の課税対象は事業税で、税率は81%となります。
以上の説明を式で表すと以下のようになります。
事業税=所得×5.3%
地方法人特別税=事業税×81%事業税+地方法人特別税
=所得×5.3%+事業税×81%
=所得×5.3%+所得×5.3%×81%
=所得×{5.3%+(5.3%×81%)}
=所得×9.59%
上記の通り、事業税及び地方法人特別税は、所得に税率を乗じて算出するため、表面税率の算式では、法人税率などに単純にプラスすれば良いことになります。
表面税率の式に、実際に数値を当てはめて、表面税率を求めてみましょう。
表面税率
=法人税率×(1+地方法人税率+住民税)+事業税率※
=23.9%×(1+4.4%+12.9%)+9.59%
=37.63%
※地方法人特別税率を含む
これで表面税率についてはひと通り説明させて頂きました。
地方法人税や住民税の課税対象が所得ではなく法人税のため、見た目がややこしくなっていますが、つまりは、分子=法人税+住民税+事業税ということです。
実効税率の計算式
次は、実効税率の計算式についてみていきます。
実効税率は以下の算式で表されるんでしたね。
そして、これまでの説明から、表面税率は「法人税率×(1+地方法人税率+住民税)+事業税率」と表されることがわかっていますので、実効税率の式は以下のように書き換えられます。
では、なぜ分母の「1+事業税率」が必要になるのでしょうか?
冒頭でも少し触れましたが、これは事業税の損金算入効果を反映させた税率を算出するために必要なります。
事業税には、法人税、住民税にはない大きな特徴があります。
それは、「損金に算入される」という点です。
法人税、住民税は企業の稼いだ利益(所得)に対して課される税であるのに対し、事業税は企業が行っている事業に対して課される税とされています。
そのため、事業を行うために地方公共団体から受けるサービスについての対価であるとされ、損金に算入できます。
ただし、事業税は計上年度ではなく、支払った事業年度に損金算入となるので、実際に損金算入されるのは翌期となります。
実効税率は企業が稼いだ所得に対して、実質的にどのくらい税金を負担するのかということを端的に示すための税率なので、この事業税を当期に損金算入したという仮定のもとに算出されています。
そのため、この「1+事業税率」という分母の調整により、事業税控除前(損金算入前)の所得金額を、あるべき事業税控除後(損金算入後)の所得金額に引き直しているというわけです。
少しわかりにくいと思いますので、所得を1,000、事業税率を10%と仮定した数値例を用いて説明いたします。
事業税は所得に事業税率を乗じることで求められますので、所得1,000×事業税率10%=100 となります。
これを当期の損金に算入すると仮定すると、当期のあるべき所得は1,000-100で900となります。
当期のあるべき所得が900なので、あるべき事業税の額は、実は900×10%で90だということが判明しました。
しかし、あれっ?
あるべき事業税が90であるなら、あるべき所得は1000-90=910
あるべき事業税910×10%=91 ということになり…
これを続けていくとあるべき事業税に辿りつくのですが、ここでは方程式を用いてあるべき事業税を算定してみましょう。
あるべき事業税の額をAとすると、
A=(事業税控除前所得 - A) × 事業税率
と表すことができます。
これを展開していくと
となります。
さらにこの式を組み替えると
となります。
A (あるべき事業税額)=事業税控除後所得×事業税率
なので
ということなります。
つまり、分母に(1+事業税率)をもってくることで、事業税控除前の所得金額が、あるべき事業税控除後の所得金額に引き直されたことになります。
実効税率の式の分母は、実は分子の表面税率ではなく、乗じる対象の所得の金額を調整するために設けられていることがわかります。
上記の調整により翌期に事業税が損金算入されるという期ズレを解消し、当期の所得に対しいくら税金がかかったか知ることができます。
値をあてはめると以下のようになります。
おわりに
表面税率、実効税率の構成要素をひとつひとつ丁寧に紐解いていくことで、法人の所得課税形態に対する理解が深まると思います。
また、納税予測の場合は表面税率、節税効果を図るためには実効税率、など、それぞれの性質を知ることで、どのような場面でどのような税率を利用すべきかが明らかになると思います。
それぞれの場面で適切な税率を用いることで、正しい経営判断に役立てて頂きたいと思います。