税制適格ストックオプションのメリットとその要件とは?

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税制適格ストックオプション

皆さんはストックオプションという言葉を聞いたことがあるでしょうか?

もし聞いたことがなければ、新株予約権という言葉はどうでしょうか?

企業会計基準委員会の「ストック・オプション等に関する会計基準」によれば、それぞれ以下のように定義されています。

「ストック・オプション」とは、自社株式オプションのうち、特に企業がその従業員等に、報酬として付与するものをいう。
ストック・オプションには、権利行使により対象となる株式を取得することができるというストック・オプション本来の権利を獲得することにつき条件が付されているものが多い。
当該権利の確定についての条件には、勤務条件や業績条件がある。

そして、同会計基準では自社株式オプションとは以下のように定義されています。

「自社株式オプション」とは、自社の株式を原資産とするコール・オプション(一定の金額の支払により、原資産である自社の株式を取得する権利)をいう。新株予約権はこれに該当する。

一方、新株予約権の定義は会社法2条にあります。

新株予約権 株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利をいう。

これらをあわせて考えると、以下のような関係になります。

ストックオプション関係図

ストックオプションに関しては、①従業員や役員に付与するものであること ②報酬としての性格があること という点が特徴となっています。

本稿では、このストックオプションについて、メリットやデメリット、付与する場合の注意点などについて解説していきます。

 

ストックオプションの仕組み

上記の定義を見てもわかるように、ストックオプションとは簡単に言えば、ストックオプションを発行した会社の株式を特定の金額で買うことができる権利のことです。

では、このような権利をもらうことが、どうして報酬の代わりになるのでしょうか?
ここではストックオプションの仕組みを簡単な数値例で確認してみましょう。

例えばA社がBさんに対し、自社株を1,000円で買えるストックオプションを与えたとします(この1,000円を「権利行使価格」といいます。つまり、権利行使価格とは会社の株式を買える金額のことを指します)。

A社の株価が1,000円以上であれば、Bさんはストックオプションを使ってA社株を1,000円で購入し、それをすぐさま市場で売却することで利益を得ることができます。

ストックオプション概念図

上図の例ではA社の株価が1,600円だったため、Bさんはストックオプションを使うことで600円の売却益を得ています。この600円が報酬の代わりになるということです。ストックオプションの大まかな仕組みはこのようなものです。

 

ストックオプションのメリット

では、なぜA社はBさんにストックオプションを付与したのでしょうか?実はストックオプションにはBさんだけではなく、A社にとっても大きなメリットがあるのです。

ここでは、Bさんがストックオプションの付与されたメリットが、そのままA社にとってもメリットになるということを解説していきましょう。

 

従業員のモチベーションを向上できる

先ほどの例ではBさんは600円の売却益を得ることができました。Bさんにとってはボーナス的な収入ですので、これがストックオプションを付与された役員や従業員にとってのメリットです。

ここで、もしA社の株価が権利行使価格を下回る700円だったらどうでしょう。

Bさんはストックオプションを行使して、1,000円でA社の株式を買ったとしても、市場では700円でしか売れません。そうするとBさんは300円(=1,000円-700円)損をしてしまいますから、ストックオプションを行使しないでしょう。

ストックオプションを行使しなければ、損をしない代わりに、得をすることもありません。

一方で、株価は会社の業績に連動しているとも言えます。理論的には、会社の業績が上がれば、それに応じて株価も上がるはずです。

従業員であるBさんにとって、株価が上昇すればストックオプションを行使して売却益をえることができるということですので、会社の業績があがるよう尽力することが期待できます。

したがって、ストックオプションには、A社にとっても従業員や役員のモチベーションを向上させるという効果があります。

 

優秀な社員を確保できる

起業したばかりの会社は開発や営業に費用がかかり、キャッシュが潤沢でない場合が多いものです。

そういった会社にとって、優秀な社員の確保は悩みの種です。報酬、給与などは基本的にキャッシュで支払われ、優秀な人材ほど給与などは高くなりがちだからです。
成長性のある会社であっても、キャッシュが少ない場合には給与を払えず、優秀な人材を獲得することができません。それによって会社の成長が鈍化してしまうこともあり得ます。

しかし、そのような場合でも、将来的には業績が上がり上場を予定しているのであれば、ストックオプションを付与することで問題が解決する可能性があります。

例えば、会社にとって不可欠な知識と経験を有しているCさんという人物がいるとします。

Cさんはとても優秀な人材ですので、相応の給与を支払わなければ当社で働いてくれそうにはありません。

そのような場合、Cさんを迎え入れるときにある程度のストックオプションを付与します。ストックオプションは単なる権利ですので、基本的にこの時点でキャッシュアウトは伴いません。

上場時には株価が行使価格を大幅に上回っているでしょうから、それによってCさんは売却益を得ることができます。これはCさんにとっても魅力的な入社条件となるでしょう。
こうして少ない給与額でもCさんを獲得することができ、Cさんは上場に向け尽力してくれるというわけです。

 

ストックオプションのデメリット

良いことばかりのように見えるストックオプションですが、デメリットも存在します。ここではストックオプションのデメリットを紹介します。

 

業績以外の理由で株価が下落する可能性がある

株価が基本的に会社の業績に連動しているといっても、株価はそれだけで決まるわけではありません。

例えば、市場全体の景気が停滞している場合などは、会社の業績に関係なく株価が下落することも考えられます。
このような状況はストックオプションを付与された従業員にとってはもちろん、ストックオプションを付与した会社にとってもデメリットとなります。

株価が権利行使価格を大きく下回った場合には、株価上昇についてあきらめムードが漂い、モチベーションの向上というストックオプションの効果が得られないためです。

 

上場審査に影響が出る場合がある

ストックオプションはいずれ株式に変わりますので、「潜在株式」と呼ばれます。

発行済株式数に対する潜在株式数の割合があまりに高い場合には、上場審査で問題視されやすくなります。

というのも、上場した直後に大量のストックオプションが行使されると、株価が下落する可能性があるためです。
このようなことになれば、IPOに際し株式を引き受けた投資家は大きな損失を被ってしまいます。

そのため、上場準備企業は、潜在株式比率を10%程度としておいたほうが良いでしょう。

 

莫大な税金を支払う可能性がある

実はストックオプションを従業員などが行使した場合、原則として権利行使時(株式の購入時)と株式売却時の2つの時点で税金(所得税と住民税)がかかってきます。

この点については、ストックオプションの設計次第で回避することができるのですが、ストックオプションの税金については少し複雑ですので、章を改めて説明いたします。

 

税制非適格ストックオプションの問題点

それではストックオプションの税金について見ていきましょう。

まずは、以下のグラフを見てください。

ストックオプショングラフ①

縦軸が株価、横軸が時間の経過を表しています。グラフの左端が会社から従業員などにストックオプションを付与した時点です。今回は無償、つまりタダでストックオプションを付与しているとします。

仮に紫のS字線のように株価が推移したとすると、ストックオプションを行使した人に対し、以下のように税金がかかってきます。

ストックオプション付与時
課税繰り延べ。すなわち税金の支払はなし

権利行使時
行使時の株価が権利行使価格を上回っている部分について給与所得として課税

株式売却時
売却価額が権利行使時の株価を上回っている部分について譲渡所得として課税

通常、税金は経済的な利益を得た時点でかかります。経済的な利益というと難しいですが、つまりは儲かったときに税金がかかるということです。

そうすると、ストックオプションの付与時において、従業員はストックオプションをタダでもらおり経済的な利益を得ていますので、この時点で課税されるはずです。

しかし上記の通り、ストックオプション付与時には税金はかかりません。ストックオプションを付与されたことで得た経済的な利益の額を算定することが困難であるとの理由からです。

金額が確定しなければ税金を課すことはできませんから、利益の額が明らかになるまで課税が繰延べられます。

そしてその利益の額が明らかになる時点というのが、ストックオプションの権利行使時と株式売却時というわけです。

ストックオプションを行使した人は権利行使時と株式売却時において、それぞれ上記の部分について利益を得ていますので、その利益に課税されるのは当然といえば当然です。

ところが、特に権利行使時の課税には様々な問題があります。

ストックオプションの権利行使とは、権利行使価格で株式を買うというだけのことであり、上記の「行使時の株価が権利行使価格を上回っている部分」というのは、仮に権利行使後すぐに株式を売却したら得られるであろう利益にすぎません。

実際には株式は売却しておらず、お金も得ていません。ストックオプションが株式に代わっただけで、むしろ権利行使時は権利行使価格相当のお金を払っていますのでキャッシュは不足しています。

このような状況で未実現の利益に課税してしまうと、ストックオプションを行使し、権利行使価格分の支払いをしたにも関わらず、さらに税金の支払いもしなければならないことになってしまいます。

ストックオプションを行使した人にとっては、まさに踏んだり蹴ったりの状況ですし、こんなことになるなら誰もストックオプションを欲しいと思わなくなるかもしれません。

もしそうなってしまったら、これまで述べてきたようなストックオプションのメリットが失われるだけでなく、我が国の国際的な競争力も失われてしまうでしょう。

 

税制適格ストックオプションの税金

このような問題を避けるため、一定の要件を満たすストックオプションについては、以下のような課税関係が認められています。

ストックオプション付与時
課税繰り延べ。すなわち税金の支払はなし

権利行使時
課税繰り延べ。すなわち税金の支払はなし

株式売却時
売却価額が権利行使価格を上回っている部分について譲渡所得として課税

先ほどのグラスで表すと、以下のようになります。

ストックオプショングラフ②

つまり、ストックオプションの付与時だけでなく、利益の実現していない権利行使時にも課税せず、株式の売却時にいっぺんに課税されるということです。

株式の売却時にはその分キャッシュを得ていますので、課税したとしても先ほどのようにキャッシュ不足に陥る可能性は低いといえます。

また、給与所得より譲渡所得のほうが税率が低くなることが多いため、納税総額も少なくなる可能性が高いのです。

このように、権利行使時の課税の繰延べができるストックオプションを「税制適格ストックオプション」と言います。

ストックオプションのメリットを活かそうとする場合には、税制適格ストックオプションに該当するように要件を満たさなければなりません。

次はこの税制適格ストックオプションの要件について解説していきましょう。

 

税制適格のストックオプションの要件とは

 

ストックオプションが税制適格となるかどうかは、主に①付与対象者 ②権利行使期間 ③権利行使価額 ④発行形態の4つについてそれぞれの条件を満たす必要があります。

その他の条件については「租税特別措置法」第29条の二をご確認下さい。

さっそく一つずつ見ていきましょう。

①付与対象者

ストックオプションを付与される人は、次のいずれかに該当しなければなりません。

  • 自社の取締役、執行役または使用人(およびその相続人)
  • 発行株式総数の50%超を直接または間接に保有する法人(つまり子会社)の取締役、執行役または使用人(およびその相続人)

ただし、付与対象者は付与決議時に大口株主や大口株主の特別利害関係者に該当してはいけません。

大口株主とは、以下のような株主です。

  1. 非上場株式の場合は、発行済株式の1/3超を保有する株主
  2. 上場会社の場合は、発行済株式の1/10超を保有する株主

また大口株主の特別利害関係者とは、以下のような株主です。

  1. 大口株主の親族
  2. 大口株主の事実上の婚姻関係にある者及びその者の直系血族
  3. 大口株主の直系血族と事実上の婚姻関係にある者
  4. 大口株主からの金銭等で生計を維持している者及びその者の直系血族
  5. 大口株主の直系血族からの金銭等で生計を維持している者

 

②権利行使期間

付与決議の日後2年を経過した日から、付与決議の日後10年を経過するまでの間

 

③権利行使価額

ストックオプションにかかる契約締結時(付与時)の一株あたり価額以上であり、権利行使価額が年間1,200万円を超えないこと

未公開会社の株式の場合、一株当たりの価額は最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額とします。ただし、例えば普通株式のほかに種類株式を発行している未公開会社が、新たに普通株式を対象とするストックオプションを付与する場合には、仮に種類株式の発行が最近において行われた売買だとしても、その価額を一株あたり価額とすることはできません。オレンジの値付けにアップルの価格を参考にはできないというわけです。

 

④発行形態

株主総会の決議で募集事項が決定された無償発行であり、譲渡が禁止されていること

役務提供の対価として発行されたものも含みます

 

特に注意しなければならないのは、①の付与対象者です。

「取締役、執行役または使用人」とありますので、監査役や外注先、法人などは対象外となります。

また大口株主も対象外ですので、ベンチャー企業の創業者で持ち株比率が高い方は税制適格とならない場合があります。

また、会社はストックオプションの付与に関する調書をその付与日の翌年1月31日までに本店所在地の所轄税務署長に提出する必要があります。

 

税制適格要件を満たさない場合には有償時価発行のストックオプションで

税制適格ストックオプションは無償発行のものでなければなりませんが、そもそも大口株主に該当してしまった場合には、税制適格要件を満たしません。ベンチャー企業の創業者などが大口株主に該当しやすいのは前述の通りです。

また、税制適格ストックオプションは無償発行でなければなりませんので、従業員などにとってはタダでもらえるものです。

身銭を切って取得したものではないため「他の人が頑張ってくれて、もし株価が上がれば儲け物」的に受け取られる可能性があります。これではストックオプションの一番のメリットであるモチベーションの向上は期待できません。

そのような場合に使えるのが有償発行ストックオプションです。

「有償発行」ですのでタダでストックオプションを付与するのではなく、付与者にストックオプションを売ることになります。

この有償発行ストックオプションは税金面で税制適格ストックオプションと同じような効果を得ることができます。

次からは有償発行ストックオプションの課税関係を見ていきましょう

 

有償発行ストックオプションの税金

有償発行ストックオプションの課税関係は以下のようになります。

ストックオプショングラフ③

これまでのグラフより少し複雑になっていますので、説明します。

これまでと違い、会社はストックオプションを有償で発行しますので、まずはストックオプションをいくらで発行するかを決めなければなりません。

通常、オプション価格はモンテカルロ・シミュレーションやブラック=ショールズ・モデルという評価方法によって適正な価値が算定されます。

これらの評価方法の説明は残念ながら割愛します。興味のある方はググってみてください。特にモンテカルロ・シミュレーションはエクセルでもできますので、是非チャレンジしてみてください。

そして算定された価格でストックオプションを発行します。付与者からみると、その価格を払い込むことでストックオプションを買えるというわけです。

この時点では単にストックオプションを購入しただけですので、課税関係はありません。

そして、その後の権利行使時での課税関係も無償のストックオプションと異なります。

無償のストックオプションでは、税制適格でなければ権利行使時点で課税されるのでした。

これは、ストックオプションをタダで取得した場合、本来ならストックオプションの取得時点で課税されるものを、利益が不確定なため権利行使時点に繰延べたためです。そして、税制適格であれば、さらに株式の売却時点まで繰延べることができるのでした。

一方、有償発行のストックオプションではこのような複雑な論理は必要ありません。ストックオプションの付与時と権利行使時のどちらにおいても、ストックオプションや株式を取得したのみであり、ストックオプションの取得価格と権利行使価格との合計が株式の取得価格となるのみで、何ら経済的利益は発生していません。

経済的利益は株式売却時にようやく発生し、株価が株式の取得価格を上回る部分が譲渡所得となるというわけです。

税制適格ストックオプションと同様、株式を売却して手元にキャッシュがある段階まで課税されない点がメリットです。

有償発行ストックオプションではストックオプションの発行時に、付与対象者にストックオプションの時価相当額を払い込みをしてもらわなければならない点がネックですが、ストックオプションにさまざまな条件(例えば、営業利益が2倍にならないと権利行使できない、など)を設けることで、株価の数%程度にまでストックオプションの価格を下げることもできます。

従業員にストックオプションを買えと言うのは気が引けるのでしたら、税制適格を受けられない大口株主には有償発行、その他の人には税制適格ストックオプションを発行するのでも良いでしょう。

 

まとめ

いかがだったでしょうか。

ストックオプションについて特に税金面に着目して解説してきました。

しかし、ストックオプションは税金だけでなく、会計的なインパクトや資本構成などにも注意して発行する必要があります。

必ず経験豊富な税理士や弁護士の助言を受けて発行するようにしましょう。

 

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