いまさら聞けない美術品の減価償却

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象と鯨図屏風

美術品も減価償却?

先日、サントリー美術館に若冲と蕪村展を観に行ってきました。 この展覧会は、伊藤若冲と与謝蕪村という同い年の絵師の作品を人物、山水、花鳥などの共通するモチーフによって対比させながら紹介するという凝ったものでした。 その中でも本稿冒頭に掲載している若冲「象と鯨図屏風」は、ぬいぐるみのような象と雄々しい鯨の対比が印象的で、またその大きさにも圧倒され、しばらくその前から動けないほどでした。 もう少しこの作品については語りたいのですが、残念ながらそれは本稿の主旨ではありませんので、またの機会に譲りたいと思います。 さて、この展覧会が行われた美術館は、飲料メーカー「サントリー」の公益財団法人、サントリー芸術財団により運営されています。美術館の所蔵品はこの法人の財産とされています。 また、こういった特殊なケースに限らずとも、応接室などに絵画や彫刻などが飾られている場合も少なからずあるのではないでしょうか。 これらの美術品は明らかに有形固定資産ですので、会計を少しでもかじっていれば、これらの資産について減価償却すべきか否かという疑問が浮上してきます。 本稿ではこのような、会社が所有する美術品等の取扱いについて解説いたします。 実は、美術品が減価償却資産に該当するかどうかの判定については、取扱通達の改正が行われ、平成27年1月1日以後取得する美術品等について新しい取扱いがなされるようになりました。 ところで、なぜ美術品のみを対象として、それが減価償却資産に該当するか否かについて通達なされたのでしょう? それに答えるためには、そもそも減価償却とは何かについて考えてみる必要があります。  

そもそも減価償却とは?

減価償却から資産除去債務まで。固定資産会計詳解!」でも解説している通り、減価償却とは、例えば機械装置や車両など長期間にわたって使用される資産の取得価額を、その資産が使用できる期間にわたって費用化していく手続きです。 簡単に言うと、買ったときに全額を費用とするのではなく、一旦資産に計上しておいて、それを数期間にわたってを少しずつ費用化していくというわけです。 なぜこのような手続きが必要になるかといえば、機械装置や車両などは、時の経過やその資産を使用することによってその価値が減っていくと考えられているからです。 つまり、時の経過などによって減っていく資産の価値を正しく会計に反映していく手段が減価償却だと言えます。 ここで、機械装置や車両と同じ有形固定資産である土地について考えて見ましょう。 実は土地は減価償却しない資産、つまり非減価償却資産なんです。 土地を減価償却しない理由は、土地の価値を考えてみるとわかります。 土地はその上に建物や工場を建てることが主な価値ですよね。 つまり土地は「そこに在ること」自体が価値であって、その価値は時の経過や使用状況によって減っていくものではありません。そのため土地は減価償却しないのです。 このように、減価償却は資産の価値の減少を会計に反映する手続きだということをおさらいした上で、美術品について考えてみましょう。  

美術品は減価償却に馴染まない

具体的なものがあったほうがイメージしやすいので、ここではカラヴァッジョの「聖マタイの召命」について考えて見ましょう(いや、ゴッホでもルノワールでもいいんですが、僕がカラヴァッジョが好きなだけです。すみません)。 聖マタイの召命   さて、この「聖マタイの召命」をある会社が応接室に飾るため購入したとします。 それから10年後、応接室では相変わらずキリストがマタイを指さすこの絵が飾られています。 さてこの時、この絵は買ったときに比べて美術品としての価値が下がったといえるでしょうか? 応接室の環境が悪く、ひどく絵が劣化しているのでもない限り、この絵は相変わらずその魅力を保ち続け、価値が下がっているとは言えませんよね。 このように、一定の美術品には時が経過してもその価値が下がらないという特徴があります。これは時の経過により土地の価値が下がらないことと似ています。 大切なのは、機械装置には機械装置の、土地には土地の、美術品には美術品の、それぞれに特有の価値があるということです。 そして、それぞれの価値は時の経過により下がっていく性質のものと、何年経とうとも変わらない性質のものがあり、減価償却が時の経過などによる価値の減少を会計に反映する手段であるということを考えると、土地や美術品は減価償却すべきでないという結論が自然と導かれると思います。 ですが、これでめでたしめでたしとはいきません。理論上導き出されたこの結論を実務一般に適用しようとすると、別の問題が立ち上がります。 土地についてはあまり問題はないでしょう。 誰が見ても土地は土地ですし、その上に何らかの構造物を建てるという土地の価値に照らし合わせると、その中で時の経過により価値減少が生じる土地とそうでない土地が混在するというようなことはありません。 一方で、美術品についてはどうでしょう。 そもそも美術品はその範囲があいまいですし、仮に美術品の範囲が明確となったとしても、その中には時間の経過によって価値が減少するものとそうでないものが混ざっている可能性があります。 そこで、この改正通達によって、ある程度の線引きをし、保有する美術品等について公平に減価償却資産かそうでないかを判断しましょうとなったわけです。 なお、この通達は、絵画や彫刻等の美術品のほかにも、工芸品などにも適用されることに注意が必要です。美術品等の「等」の部分はこれを表しています。  

減価償却しない美術品とは

それでは、どのような美術品が減価償却しないものなのか、改正通達に沿って解説していきます。 改正前の通達の取扱いでは、以下の基準に該当すれば、減価償却しなくてよい美術品等だと判定していました。

  • 美術関係の年鑑等に登載されている作者が制作した作品
  • 取得価額が1点20万円(絵画にあっては号当たり2万円)以上の作品

しかし、一口に「美術関係の年鑑等」といっても、年鑑は世の中に複数存在しますし、そこに誰を掲載するのかの基準もまちまちです。 それに、美術品の金額基準として20万円というはなんだか低すぎる気がしますよね。 そこで、平成26年12月に「法人税基本通達等の一部改正について」という法令解釈通達が公表されました。 「法令解釈通達」とは聞きなれないことばだと思いますが、これは税法についての取扱いを定めた国税庁の通達であり、基本的には行政機関の内部文書です。 ただ、内部文書とはいえ、国税庁はこの通達に基づいて判断するということですから、納税者にも通達に基づいた処理をすることが事実上強制されるものです。 改正通達では、まず、その美術品等が歴史的価値を有し、代替性のないものかどうかを判断します。 例えば、古美術品、古文書、出土品、遺物等はこれに該当し、減価償却しない美術品等となります。 そうではないものについては、金額基準での判定へ移ります。 改正後は、これまで低すぎるといわれてきた金額基準が1点につき取得価額が100万円以上と引き上げられました。 つまり100万円未満の場合は原則として減価償却資産に該当するというわけです。 もちろん、会計的な観点から見れば、減価償却資産か否かの判定は「時の経過によりその価値が減少するか否か」によることが大原則ですので、取得価額が1点100万円未満の美術品等であっても、時の経過によりその価値が減少しないことが明らかなものは、減価償却資産に該当しないものと取り扱われます。 逆に、取得価額が1点100万円以上の美術品等であっても、時の経過によりその価値が減少することが明らかな場合には減価償却することができます。 この際、「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」かどうかは美術品等の実態を踏まえて判断しますが、以下の事項を全て満たすようなものは価値減少が明らかであり減価償却資産に該当するとされています。

  1. 会館のロビーや葬祭場のホールのような不特定多数の者が利用する場所の装飾用や展示用(有料で公開するものを除く。)として取得されるものであること。
  2. 移設することが困難で当該用途にのみ使用されることが明らかなものであること。
  3. 他の用途に転用すると仮定した場合に、その設置状況や使用状況から見て美術品等としての市場価値が見込まれないものであること。

ちょっと分かりにくいと思いますので、また具体例を挙げて考えてみたいと思います。 ここでは、渋谷駅に展示されている岡本太郎の壁画「明日の神話」を例に考えてみましょう。 明日の神話   この壁画は渋谷マークシティの京王井の頭線渋谷駅とJR渋谷駅を結ぶ連絡通路に展示されています。 そのため、1.の「不特定多数の者が利用する場所の装飾用や展示用として取得されるもの」に該当します。 (「明日の神話」は2008年からここに展示されていますので「取得される」ものではなく「取得された」ものですが、ここでは無視します。改正通達が適用される美術品の取得時期については後述いたします) 2.については「明日の神話」は「移設することが困難で当該用途にのみ使用されることが明らかなもの」とはいえないでしょう。事実、この壁画はもともとメキシコのホテルから依頼を受けた作品を修復し、渋谷に移設されたものです。 そしてこのような経緯によっても「明日の神話」の美術的価値は減少していないでしょうから3.についても該当しないと考えられます。 その結果、「明日の神話」は減価償却資産ではないと結論付けられるということです。 なお、3.については「その設置状況や使用状況」が重視されていることに着目してください。 「明日の神話」は壁画ですので、基本的にはむき出しで展示されることを想定して作成されますが、通常の油絵や日本画は湿度や光量を適切に保たなければすぐに劣化してしまいます。そのため、例えばガラスケースに入れるなどして展示していない限り、3.の条件に該当し、減価償却資産と判定される可能性が高いです。 ちょっと長くなってしまいましたので、以下のフローチャートで判定手順を整理しておきますから、確認してください。 美術品減価償却判定  

昔から持ってる美術品も減価償却するの?

さて、このように減価償却資産か否かが判定されるのですが、この判定は全ての美術品等に適用しなければならないのでしょうか? 実は、改正通達は平成27年1月1日以後取得する美術品等について適用されます。したがって、これより前に取得した美術品等については、従前の処理を継続することができます。 ただし、すでに取得している美術品等について、改正通達により再度判定を行った結果、減価償却資産に該当するこことなった場合には、平成27年1月1日以後最初に開始する事業年度から減価償却を行うことが可能です。 なお、再判定は平成27年1月1日以後最初に開始する事業年度においてのみ可能で、この時期を逃してしまうと従前の処理を継続するしかなくなってしまいますのでご注意下さい。  

美術品等の償却方法は?

改正通達の適用資産は平成27年1月1日以後取得する美術品等について適用されますが、減価償却自体は平成27年1月1日以後最初に開始する事業年度からとなります。 これが何を意味するかと言うと、3月決算法人であれば、平成27年1月1日~3月31日の間に取得し、この期間内に事業供用した美術品であっても、減価償却は平成27年4月まで待たねばならないということです。 一方、従来より保有していて、改正前は非減価償却資産に該当していた美術品について、通達改正後の再度判定で減価償却資産に該当することとなった場合の償却方法は、その美術品等を実際に取得した日に応じて旧定額法、旧定率法、定額法、250%定率法又は200%定率法によることになります。 また、これに代えて取得日を平成27年1月1日以後最初に開始する事業年度の開始の日とみなすこととして定額法又は200%定率法を選択することもできます。 さらに、中小企業者等では少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の規定を適用することもできます(経過的取扱い)。 ややこしいですね。表で示すと次のようになります。 美術品減価償却方法   そして、減価償却をする際に何年間にわたって費用化するのかが問題となりますが、減価償却資産に該当する美術品等の法定耐用年数は、それぞれの美術品等の構造や材質等に応じて、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第一に掲げる区分に従って判定することとなります。 例えば、その美術品等が金属製の彫刻だとすると、「器具及び備品」の「室内装飾品のうち主として金属製のもの」に該当し15年で償却します。 絵画や陶磁器、金属製でない彫刻であれば、「器具及び備品」の「室内装飾品のうちその他のもの」に該当し8年で償却することとなります。  

まとめ

かつてのバブル期と違い、現在では会社が美術品等を新たに取得することは少なくなってきたかもしれませんが、改正通達により、かつて取得した美術品等についても再判定することができます。 前述の通り、この再判定は平成27年1月1日以後最初に開始する事業年度においてのみすることができますので、この時期を逃さないうちに、所有する美術品等について改めて減価償却資産か否かの判定をしてみてはいかがでしょうか。  

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